デジタル時代の営業のあり方とは?【おすすめ書籍】

書評

今回は、デジタル時代の営業のあり方というテーマを考えるにあたり、非常に役に立つ一冊をご紹介したいと思います。

スマートフォン・インターネットが身近になり「デジタル時代」が到来、生活が大きく変革してから数年が経過しました。日々ニュースはAIやIoTなどその中で、営業のあり方はどれだけ変革できたでしょうか。

従来の営業は、顔も名前も知らない相手への「テレアポ」や、アポも取れていない段階での「飛び込み営業」から始まり、運良く相手が興味を持ったら商談に繋げるという古典的な手法が一般的でした。しかし、いまや「テレアポ」は電話をかける相手を知っていなければ会社の代表電話は繋いではくれませんし、「飛び込み営業」にいたっては、飛び込み営業を許可しているビル自体を見つけることが困難です。最悪のケース、警察に通報されるなんてこともあるかもしれません。

そういった古典的な営業手法から抜け出し、グーグル検索やSNSを活用によってお客様から見つけてもらうための営業手法に移っていく必要があります。しかし、その変革は容易ではありません。

Webマーケティングを取り入れることで、グーグルやSNSの活用、しいてはお客様に見つけてもらうための営業手法は部分的には実践できるかもしれません。しかし、商談を進め契約を勝ち取るという営業の役割は依然として残るのです。特にBtoBの領域においては、Webの力だけで高額な商品が売れるということはないのですから。

ともすると、営業手法の変革とは、Webマーケティングを取り入れることだけにとどまらないということがよくわかります。Webマーケティングを取り入れた上で、従来の営業の採用方法・育成方法・マネジメント方法をアップデートする必要があるのです。

そういった変革にあたり、「アクセル デジタル時代の営業 最強の教科書」は非常にお薦めです。

アクセル デジタル時代の営業 最強の教科書

「アクセル デジタル時代の営業 最強の教科書」は、インバウンド・マーケティングという概念を一般的にしたハブスポット社の創設期に、セールスのトップを務めた著者・マーク・ロベルジュによる営業論についての一冊です。

インバウンド・マーケティングとは、ブログなどの様々なコンテンツをWebで公開し、グーグルに上位表示させたりSNSで共有・拡散させることで、見込み顧客に見つけてもらい、自社の商品に興味を持ってもらえるように仕掛けるマーケティング手法です。コンテンツは多岐にわたり、ブログや電子書籍、ホワイトペーパー、プレスリリースなどが該当します。

インバウンド・マーケティングによって、営業からの売り込みを受けるのではなく、お客様が自然とその会社を見つけ、自ら売りたい相手が売りたい企業に近づいてくる仕組みを作ることができるのです。

インバウンド・マーケティングとは、お客様(買い手)が自ら企業(売り手)に近づいてくる仕組みのこと

本書は、インバウンド・マーケティングの中での「営業」の役割やあるべき姿についての指南書です。採用から教育、組織論に至るまで、最新の営業手法を体系化した試みには感服であり、特に各種フレームワークは定期的に立ち返りたいものが盛りだくさんです。

売れる営業の方程式=アクセル

泥臭い営業手法からは早く抜け出さなければいけません。気合いと根性の飛び込み営業、期末の無理のある追い込み。そのような営業手法から卒業するために、本書は「売れる営業の方程式」を提示します。

  1. 採用:いつも同じように成功している営業スタッフを採用する
  2. 育成:全ての営業を同じ方法で研修する
  3. マネジメント:営業スタッフに同じ営業プロセスを踏ませる
  4. 見込み案件創出:営業スタッフに毎月、同じ質と量のリード(見込み案件)を与える

この方程式を実現することで、「測定可能で予測可能な増収」が実現できるのだと著者はいいます。

売れる営業の方程式1:採用

営業を育て、一人前に育て上げることは非常に重要なことです。しかし、それ以前に、採用の段階でエースレベルの営業マンを採用できていれば、育成の苦労は半減します。

問題は、いかにして「エースレベルの営業マン」を見分けるか、ということです。

本書では、まず理想的な営業の特徴を定めることから始めるべきだと主張します。理想的な営業はどのような特性があるのか。自信家なのか、あるいは積極性なのか。高いコミュニケーションスキルを持っているのか、あるいは寡黙だが熟考型の人材の方が適切なのか。これはその企業の扱う商材や、相手にするお客様によって変わってくることでしょう。しかし、だからといって「自社にとっての理想的な営業」を探求することを怠ってはいけません。

理想的な営業の特徴が定まったら、その特性をどのように見分けるのか、評価方法を定める必要があります。評価方法には正解はありません。その評価方法を実践し、そして実際に採用した人物が活躍しているかどうかを適宜振り返りながら採用手法を改善していく必要があります。

売れる営業の方程式2:育成

営業を育てる手法として、「訪問同行」を採用している企業は多いのではないでしょうか。訪問同行は効果的ですし、何より企業の営業の現場を見ることができるため、非常に手っ取り早い育成方法ではあります。

しかし、本書は、同行には問題もあると指摘します。それは、営業には「特殊能力」があるからです。営業の特殊能力には様々な種類があります。関係構築能力が抜群に高く、顧客と親密なリレーションを築くことができる営業がいる一方で、とても勤勉で高い活動量で持って売り上げを積み上げていく営業スタイルを得意とする営業がいる。そういった特殊能力の違いがあったとき、「訪問同行」はネガティブに作用する可能性があります。

顧客のニーズを徹底的に考え、膨大な提案書を作成し、そしてお客様の合理的な判断を促すことが得意な新人営業を、関係構築能力が高く顧客とのリレーションでもって商品を買わせることが得意なベテラン営業に指導させたら、どのようなことが起きるでしょうか。

関係構築型<br>ベテラン営業
関係構築型
ベテラン営業

あのお客様とはガンガン飲みに行って関係を作ろう!

ロジカル型<br>新人営業
ロジカル型
新人営業

はい!(でも、もっとお客様のニーズを深掘りして、合理的に判断してもらえるような提案がしたいな…)

もしかすると、ベテランは「もっとお客様と飲みに行ったほうがいいよ」などという的外れなアドバイスを新人に対して行ってしまうかもしれません。

「訪問同行」の問題は、その育成効果が予測も測定もできないという点にあるのです。

そこで、本書は営業の育成にあたり、「バイヤージャーニー」を描き、そしてそのバイヤージャーニーに沿って研修プログラムを組むことを薦めています。バイヤージャーニーとは、商品を購入するときにお客様がたどるステップの全体図です。それぞれのフェーズでどのような知識が求められるのか、そしてどのような会話をすべきなのか、ロールプレイも含めてなされるべきです。

売れる営業の方程式3:マネジメント

営業をマネジメントする立場になったとき、あなたの仕事は営業の生産性を高め、組織の売り上げを最大化することが重要になります。営業の生産性を上げるもっとも効果的な手段は、営業マネージャーのコーチングの時間を増やすことであると本書は主張します。各スタッフのパフォーマンスがいかに最大化できるか、その特性を見極め、それを中心にした計画が立てられることが最良の営業マネージャーです。

このコーチングの場で、営業スタッフに一方的に改善点を押し付けてはなりません。ともに考えることで、自尊心を傷つけないようにするのです。改善すべき点と、その改善のためにどういったスキルを磨いていけば良いのかをともに考えることで営業スタッフの成長をさらに支援することができます。そのスキルを磨くための協力も惜しんではいけません。「自分ができる一番良い手助けは何ですか?」と問うてみることで、さらなる支援ができるかもしれません。

本書では、コーチング以外にも歩合制度やコンテストなど、いかにして営業をマネジメントするべきかの手法を他にもいくつか提示しています。

売れる営業の方程式4:見込み案件創出

営業スタッフに毎月、同じ質と量のリードを与えることが重要であると本書はいいます。そのためには、マーケティング部門がきちんと機能していることが重要です。

Webマーケティングをはじめとした各種戦略を駆使して、見込み案件を継続的に早出し続けることが重要となりますが、そのマーケティングの手法そのものについては、以下のような書籍を参照されることをオススメします。

本章では、「営業」と「マーケティング」の関係性について、SLAを確立すべきだと主張します。SLAとは、Service Level Agreementの略で、サービスのレベルに関する合意のことです。通常は企業間で合意されるもので、サービスを提供する事業者が契約者に対して、どの程度まで品質を保証できるかを明示したものです。

そのようなSLAを営業部門とマーケティング部門が結ぶことで、互いにどれだけの成果を出す必要があるのかを明確にするのです。例えば、マーケティング部門は営業部門に対して毎月どのタイミングでどれだけの見込み顧客を渡すのか。渡される見込み顧客については、量だけでなく、質も大事です。3年後を目処に購入を考えているお客様と、1月後に購入を考えているお客様とでは、見込み顧客の質が異なります。見込み顧客の担当者が予算を持っているかどうかも重要です。そういった見込み顧客の量と質を合意しておくことを著者は薦めます。

一方の営業も、渡された見込み顧客についてどのようなアクションをとるのかのコミットがなされる必要があります。「1時間以内に電話をかける」などのアクションが取られる必要があります。

このように営業部門とマーケティング部門がSLAを結ぶことは、個人的にもとても重要だと感じます。時折、営業部門とマーケティング部門は仲が悪いケースがあります。

営業
営業

マーケティングの奴らはろくな顧客を捕まえてこない

マーケティング
マーケティング

せっかく顧客を渡しているのに、営業が全然アプローチしない

このような陰口は珍しいことではありません。こういった対立を避けるためにも、どのようなアクションをコミットするのかを明示したSLAというのは非常に有効に働きそうです。

マーケティングを含めた営業プロセス全体を変革する

マーケティングのデジタル化やWebマーケティングに関する書籍というのは多く存在しますが、本書の特徴は、その主眼をマーケティングではなく営業に置いた点であるといえます。いくらマーケティングを変革しようとも、特にBtoBにおいては、営業スタッフが優秀でなければ最終的な受注にこぎつくことはできません。

そうした営業組織・プロセスのあり方を見直したいという方はぜひ手にとって読んでいただきたい一冊です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました